過去の企画展示
第五回企画展 金工芸作家 矢部雅一
矢部雅一氏は、主に銅や真鍮などの金属板を素材に立体造形する金工芸作家である。
金工芸の技法は大別すると鋳金、彫金、鍛金の三つがあるが、矢部氏が行ってきた技法は鍛金である。鍛金は打物ともいい、金属の展延性、収縮性を利用して、金属板を金槌などで打ちながら成形する技法である。さらに鍛金は、鍛造、鎚起、板金の技法があるが、矢部氏が主に行う技法は鎚起である。鎚起は、金属を打ち延ばしながら、金属板の伸展性を利用して立体造形するもので、現在一般に鍛金と呼ばれている。金工芸の技法の中でも技能を伴う高度なものといえよう。制作テーマは何年か継続追求されシリーズ化されている。制作の根底には、容易に目にすることが叶わないものへの強い関心や好奇心があり、またそれらは永久に不変のまま留まるものはなく少しずつ変貌し続けている、それに対する懐疑、不安や恐怖、同時に淡い期待も込められているように思われる。併せて、抽象表現の可能性への挑戦もある。
第四回企画展 久保田沙耶展覧会
「砂と泉」
SAYA KUBOTA EXHIBITION
久保田沙耶は、倉吉市明倫地区で行われてきたアーティスト・イン・レジデンス事業「明倫AIR」の招聘アーティストとして2017年より2023年まで毎年倉吉へと通い、滞在制作と発表を続けてきました。郷土の文化や風習、歴史、芸術作品などのリサーチを重ねる中で、特に1920年に中井金三らによって設立された総合芸術団体「砂丘社」とその周辺の作家たちに注目します。タイトルの「砂と泉」は砂丘社の詩人、河本緑石による宣言文『砂丘 創生之記』(1921)に由来しますが、「砂丘社」の「砂丘」は鳥取砂丘ではなく倉吉の北側、海沿いに広がる北条砂丘を指します。過酷な灌漑の歴史を持つ砂丘開拓地に湧いた「泉」のように、「未墾地」に「最初の鍬」を取るようにと始まった砂丘社の歴史を、源泉から今に続く水脈のひとつひとつを辿るように久保田はリサーチしてきました。本展で久保田の描くひとつひとつの線に、複数の郷土の作家たちの気配が感じ取れるかもしれません。